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肥満細胞腫

皮膚や粘膜に広く存在し、ヒスタミンをはじめとした炎症誘発物質を豊富に含んでいる肥満細胞(マスト細胞)が腫瘍となったものが肥満細胞腫です。主に高齢の犬猫における発症率の高い悪性腫瘍のひとつで、犬においてはその約90%が皮膚に発生し、さまざまな病巣を形成します。またがん細胞の状態や特徴によってグレードIからグレードIIIに分離されており、悪性度の高いグレードIIIにおいては予後も悪いとされています。


■詳細
肥満細胞腫は犬に発生する腫瘍の中でも発症頻度の高い腫瘍のひとつです。犬の品種、性差に関係なく発症し、詳しい発症要因は不明とされていますが、発症平均年齢が9歳と比較的高齢犬に多く発症する傾向があることや特定の品種に好発性が認められることなどから、加齢に伴う免疫力の低下や遺伝などが関与している可能性が指摘されています。

犬の肥満細胞腫のほとんどは皮膚表面に発生し、病巣を形成します。しかし別名「大いなる詐欺師」と呼ばれるように発現する症状が実にさまざまであり、定まった形態がないという特性があることから、所見での診断は容易ではありません。
また症例は多くないものの、皮下組織や筋肉、内臓への発生も認められているほか、腫瘍化した肥満細胞内から放出されたヒスタミンやへパリンといった物質が病変部に炎症を引き起こすことで、皮膚における赤みや浮腫の形成、胃酸分泌の促進による胃潰瘍や胃穿孔、嘔吐などの消化管症状、そして血液凝固障害や肺水腫などの症状を引き起こすこともあります。

肥満細胞腫は基本的に悪性腫瘍に分類されていますが、実際に発生した腫瘍の分化程度やその発生部位、大きさなどによってその悪性度が異なるという性質があることから、切除組織した病理検査に基づいて悪性度の低いグレードIから悪性度の高いグレードIIIにまで分類されています。グレードIの肥満腫瘍であれば切除手術によって完治させることができるとされていますが、悪性度の非常に高いグレードIIIのものとなると転移や再発をしやすく十分な治療を行っていても予後は良くないとされています。

■対処法
肥満細胞腫の治療はグレードやに進行度よって外科療法、放射線治療、外科療法、化学療法のうち適切なものを単独、あるいは組み合わせて行ないます。

外科療法:
肥満細胞腫の中でも悪性度が低く、転移の認められていないグレードIは手術による腫瘍の切除が第一選択とされています。基本的に浸潤が懸念される周辺組織まで取り除くことができれば完治させることができるとされていますが、グレードII以上においては目に見えないレベルでの腫瘍細胞の周辺組織への浸潤が進行しているため、取り残しによる術後の再発の可能性が高くなります。

放射線療法:
外科手術では完全に切除しきれなかった腫瘍や残存している腫瘍に放射線を照射して根絶させる療法で、局所再発予防に比較的有効性が高い療法とされています。しかしサイズの大きい腫瘍にはその効果が発揮されにくい上、逆に死滅した肥満細胞から放出される炎症誘発物質による副腫瘍症群によって全身状態を悪化させることもあるため、多くの場合は外科療法と組み合わせて行なわれます。

化学療法:
注射薬や内服薬を用いて全身に散らばっている腫瘍の増大を遅らせたり、特に悪性度の高い肥満細胞腫の転移を予防する目的で行なわれます。現在のところ肥満細胞腫に対して高い有効性が認められている薬剤はないとされているため、ある程度の効果が期待できるステロイド剤や抗がん剤などを組み合わせて使用することがほとんどです。ところが近年、イマチニブをはじめとした腫瘍の増殖メカニズムを標的として攻撃する分子標的薬の有効性が指摘されており、今後の治療における新しい選択肢になり得るとして期待されています。

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